tour diary

BIRUSHANAH MONARCH EU TOUR REPORT 2017

3/28(火)
早朝から関空へ。俺は4時半から起きてバッチリ7時半に着く。多分佐野は安定の遅刻。前回のEUツアーではパスポートを忘れて家に取りに帰って、フライトギリギリに到着。乗客に睨まれ、到着までの10数時間客室乗務員に冷たくされ続け、しかもその往復のタクシー代で財布の中身がいきなり空っぽになりツアー中地獄の思いを味わっていた事を思い出す。今回もまだ来ていないようだが軽く30分位の遅刻は予想されるだろう。
「おはよう。モッ君。ヨナルテ」モッ君はやはり時間通り。そして今回は刺青師のヨナルテも別働ではあるが共にEUへ行く事となっている。ヨナルテは関空に溶け込む様な一体感と、まるで一日前からここで待って居たかの様な落ち着きを見せている。大した男だ。物凄いオーラと貫禄を周囲に放っている。今回のBordeauxにおける彼の個展も楽しみだ。
「そうそう、昨日の」俺はヨナルテに昨日の朝にあった着信の事を思い出し、その事を尋ねた。するとヨナルテは実は昨日の同じ時間からここへ着いていて、当たり前だが、幾ら待っても誰も来ない事に不安を覚え俺に電話したのだ言った。段々とヨナルテの息づかいが荒くなってくる。「ふうふう・・はぁはぁ!」つまりヨナルテは集合時間を一日間違えて待っていた。妙な関空との一体感、ホーム感はその為だったのだ。「ちゃんと航空券日付みろや!」いつも思うが彼は人より仕事をし過ぎる傾向にある。時に恐怖を覚える程だ。「なんやねんISO知っていてわざと聞いたやろ!くそう!ちくしょう!はらたつー!ムキー!」「、狂ってる!」
今度はモッ君のファッションチェックが始まる。「このGパン見て下さい。なんぼやと思います?「ええと・・800円位?」「惜しいっす!500円っす!じゃあ、この内装屋がよく履くデッキシューズはなんぼでしょう!?」「んーー。1000円!?」「ブー!500円でした!」「・・まじかよ!?安!」「うそ!?安!買い物上手やなーモッ君!」そんな話をしている中佐野が遅れて到着。「す、すんません!遅くなりました!」見慣れない白いヒョウ柄のセーターを着て登場した佐野にモッ君は「そ、それはGUで売ってた500円のやつでしょう!流石にそれはよう着んわ!」「うそ!?変かなー!?」「いつもの中華服のがいいんちゃうん?」「あ、中華服はスーツケースの中に入ってる!アハハ」皆でよそ行きのいっちょうらを披露しあい、スーツケース等の預け荷物の重量を計る我々が最もナーバスになる搭乗手続きへ向かう。余りの荷物の多さに手間取るグランドスタッフに、仕事をし過ぎるヨナルテが「お姉さん、まだかな遅・・」と言いかけた所で一同「ば!奴を刺激するんじゃない!」「あかんっす!お姉さんゆっくりやって下さいねえへへ」重量20キロをギリギリ超過している場合、追加料金が発生する事があるのだが、そのさじ加減はこのグランドスタッフの機嫌による所が少なくない。過去に我々は帰国の際だが言葉が分からないふりをして誤魔化そうとして逆にグランドスタッフを怒らせてしまい約16万円の追加請求をされた苦い経験があるのだ。勿論その逆の結果もある。ここで重要なのは可愛く愛嬌たっぷりの笑顔と真心でグランドスタッフに接する事だ。「少し重量超過していますね」「あ!じゃ手荷物の方に少し回してっと、こんな感じで、ほら20キロ!ね!?エヘ」「OKです」「ふぅ~」何とか搭乗手続きをパスし胸をなでおろす。さぁ出発だ!
最近めっきり客室乗務員の質が落ちたとモッ君がぼやいている。確かに俺の席の列に機内食を配食してくれたのもはげたおっさんであり女ですらない。しかし流石はパリ行きの便だ。セレブな斜め前の熟女貴婦人などは、機内食を食べた後、塩トマトとかいう見たこともないおやつを懐から取り出し夢中でむさぼっている。うまいんかな?今度食べてみようっと。ふとモッ君の方に目を移すとモッ君はパンを握ったままピクピクし眠っている。窓から差し込む日の光がモッ君のよれたアフロヘアを焼き尽くすように幻想的に照らしている。
その向こうの席ではヨナルテが、ネット注文を受けた客の絵柄を下描きしている。しかし何やら様子がおかしい。手元がインクで真っ黒なのだ。しかも込み上げる怒りで体を小刻みに揺らしている様にも見える。どうやら気圧の急激な変化に耐えきれず彼の持参した筆ペンが全て破裂した為だったようだ。流石だ。早速仕事をし過ぎている。仕事をし過ぎて存分にから回っている。あぁ珈琲がうまい。
パリオルリー空港とパリシャルル・ドゴール空港が別々の離れた場所の空港とは知らず多少手間取ったが乗り継ぎを無事終えBordeauxへ到着。入国審査パス!空港にはMONARCHの看板汁男優ギターリストのシラーンが迎えに来てくれた。相変わらずのスーパーロングヘアーに口ひげ、絵に描いた様な欧州ロックスターなルックスだ!一年ぶりの再会を祝しハグ。帰ってきたぜBordeaux!ただいま!
アンティークなヨーロピアン家具、観葉植物のジャングルに薄暗い電灯。おしゃれだ。おしゃれ過ぎるシラーンの家に着くと夜は歓迎パーティ。下手ギターの色男ステファンと、TINDER[国際出会い系サイト]スペシャリストなドラムス、ブービーも駆けつけてくれた。感極まった佐野は差し入れピザを頬張りながら「日本じゃこのピザ三倍の値段しますよね?何で日本ってあんなに高いねんくそぅ!美味いわ!」「でもスーパー玉出には敵わんで!誇りやわ!」みんなベロベロで就寝。

3/29(水)Bordeaux シラーンの家
朝八時、教会の鐘の音で目が覚める。回りを見ても誰もいない。皆、昨夜、夜の街へ出かけたきり帰ってきていないようだ。ヨナルテだけプリプリ怒っている。それもそのはず。家がオートロックであることも知らずに一人で外出して閉め出しを喰らってしまい、うんこしたいのに入れず。もらす寸前に何とか家に入れたのでもらさずに済んだものの、もう一度怒り心頭、爆発寸前ギグだ。個展会場へ午前10時の約束だったので、その5分前に到着するのは当然だ。日本ではな。しかし時間になっても誰も来ない。10分おきに来てみても全く誰も来る気配がない。皆寝坊だ。仕事をし過ぎる性分のヨナルテはイライラしまくって鼻息が荒くなるのを何とか抑え、広い空を見上げている。何度も何度も行ったり来たりしてようやく個展会場が開いたようだ。見に行ってみる。
中は骨だらけ。大小動物の骨が所せましと置かれている。地下には拷問部室。MONARCHのボーカル、エミリーが働くこの店はまるで骨標本博物館だ。コウモリのはく製に象の大腿骨、虫の標本やら、変人が集まりそうな不気味な店。ヨナルテは変人だがこのジャンルの変人とは違うので少しストレスになっていないか心配したが、終始笑顔だったので安心した。順応性もある大した男だ。俺達は昼前にBordeaux大学のシラーンが働く研究室へ行き鉄クズを提供してもらいに行った。情熱を鉄クズに燃やす佐野と研究員は意気投合した。早速目ぼしい鉄クズをピックアップし、カットして欲しい所に印をつけて研究チームに加工を託す。頼もしいぜ!!夕方過ぎから予約していた倉庫群にあるスタジオでリハーサル。去年ツアーで使っていた機材もここに格納されている。佐野は去年の器材を見るなり、メタパーのグレードが低すぎだった事を痛感。心にダメージをくらう。「このセットでよく去年ツアーしたよな。俺こわいわ...こわい!」「違うぞ佐野、それはこの1年でお前とメタパーが確実に進化したその証なんだ。この1年前のメタパーはつまりお前の『卒業アルバム』なんだ。それだけ成長したんだよ!自信持とうぜ。お前は天才だ!」埃が舞う薄汚い倉庫の練習場で佐野はメタパーを抱きしめ、まるで我が子のように語りかける。「ただいま。迎えに来たよ!ずっとほったらかしてごめんな!」「やりましょうや!やったりましょうや!」モッ君も息を荒げて盛り上がっている。「よし!ジュースを買いに行こうぜ!」「よし!行こう。」3人で倉庫の重い鉄の引き戸を開け外へ。まさかと思って閉めた引き戸を再び開けようとした時、ハッと気付いた!や、やっぱりオートロックなのか!3人共スマホも上着もスタジオの中に残したまま閉め出しを喰らった!「やばい!うそ!このボロイ引き戸もオートロックなのか!?んなアホな!まさかこのまま練習終了!?」もがき、うろたえ、路地裏に関西弁が響き渡る。夢中で押しまくったインターホンで、なんと普通におやじが「何?どしたん?」て感じで出て来た!!「よかった!助かった。おやじありがとう」閉め出しを防ぐ為、モッ君に留守番を任せ、佐野と2人でジュースを買いに行く。しかし行けどくらせどショップどころか自販機すら無い。駅近くにあるにもかかわらず15分ぐらい捜しても見つからず、何とかBARのような店で3人分の飲み物を買うことができたものの、佐野はひどく落ち込んでいる。「日本ならこのクラスの街なら1ブロックにコンビニ1件ぐらいはあるし、自販機もくさるほどある。俺達はほんと甘やかされて育ってますよね...」その通りだ。何の命の危機感もなく、ただ治安がいいとか清潔だとか便利だとか雇用とか、そんなものと引き換えに俺ら日本人は何か大切なものを忘れ、失ってしまったのではないだろうか。落ちているうんこを避けながら俺と佐野は猛省した。「うんこ多いな。飼い主、マナー悪いよな。うんこ踏んだらこれも自己責任やでな。それが個人主義的価値観かもな。日本人は根性とか忍耐とかやったら負けへんねんけどな」「そうっすよね!頑張って練習して、欧米人に日本人の根性見せたりましょうや!」
「モッ君留守番ありがとう。はい、水買ってきたよ。練習じゃ!根性の練習じゃ!根性ちゃうわ!音楽の練習しようぜ!」
夜は近くのBARで飲み会。深夜遅くまであちこちで飲み会が開かれている。橙色の外套の下、薄暗い路地の広場、たくさんの人で賑わっている。ブービーに皆が何の話で盛り上がっているのか聞いてみると、仕事の話、色恋沙汰の話、スポーツ、そして近々フランスではデカい選挙があるらしく、その話で盛り上がっているのかもしれない。と言っていた。
ミシェルと会って、嫁エスメラルダへのプレゼントと出産祝いを手渡した。とてもとても喜んでいたが、2人は現在別居中らしい。色々事情があるのだろう。何とかこのプレゼントで仲をとりもって欲しいと思う今日この頃である。昼間、全て避けきれていた路上のうんこも、泥酔状態の佐野には避けきれずうんこまみれの靴で帰宅。お前、靴脱いで家入れよな!

3/30(木) VOID(Bordeaux France)
朝、9時起床。ヨナルテが一番乗りで仕事へ出掛ける。「モッ君、僕、缶コーヒーがとても好きやねん。でも、ここBordeauxには全く売ってないから辛い。近くのJaponショップに売ってたレインボーマウンテン、BOSSの缶コーヒーなんか€3.50やで!?西成やったら40円とか20円とかあるのに、あんなん買えるか!」と怒りあらわにする。んなもん西成に全部比べるのやめろや。おフランスに来てまで西成西成言うのはほんまやめろや。彼は人一倍西成愛の強い人間なので無理はないが、初めて訪れたここBordeauxも第二の故郷となって欲しいものである。否、西成愛が強い彼のことだ。きっとそうなるに違いない。遅れて俺達もメタパーカスタムを頼んでいたBordeaux大学へ向かう。行く途中の道やアパートの下ですれ違う人が時々挨拶をしてくれる。「全くの他人にも挨拶なんて考えられるか?」「きっと日本人はそんな余裕がないのでしょう。」とモッ君。確かに日本は皆働き者の強猛者ばかりだし、真面目で物づくりの達人には違いない。だかそのせいで何となく暗く冷たい、八つ当たりみたいな世の中になってはいないだろうか?心の余裕や心の豊かさ、本当の思いやりとは一体どんなものがそれなのか?外国、特に欧米各国を訪れる度にそう思う。豊かさと貧しさとは一体どの境界で線引きするのか。スローライフな3日間を過ごした俺達は大学へ行く道でその事を感じた。「そうっすね。何かご飯もうまいし、女の子も可愛いし、いつもの憎しみのPowerが消えてきますわ。スローライフって幸せ」がしかし、鏡を見て3人は奮起する。「なんて平たいショボい顔なんだ!もっと頑張って目立たなあかん!憎しみを燃やせ!」となんとか正気を取り戻す。大学へ着くと研究員の人達の仕事は完璧で、鉄パイプが完成していた!ありがとう!鉄くずに情熱を燃やす俺達を認めてくれたみたいで本当に嬉しかった。自分の国でもこんな事をしてくれないのに!なんや大学の人って、やらされているわけではなく、自分の意志で動いているからこんな突然な、唐突なお願いに対応してくれるのかな。と思った。記念撮影を終えて、鉄パイプを紙袋に入れてフランスパン風に持って帰ります。ありがとう。BordeauxUNV。それにしてもシラーンは頼れる男だ。容姿端麗だし、仕事も迅速丁寧信頼と実績、全く以てスキのない男だ。俺も最近20㎏ぐらいダイエットして髪も長いせいもあり、シラーンみたいだね。って言われる事があるが、ぶっちゃけ、ネット上のお前ら、実際のお前らみたいなネットに出てくるあれのレベルの違い位はあると思う。柴犬や秋田犬が、シェパード、グレートデンになれるわけがない。でも嬉しいな!ありがとう!夜、ライヴ、サウンドチェックで手間取る。メタパーも当然だが、ドラムセットの椅子やクラッシュシンバルが無い為にモッ君も苦戦している。またも日本での恵まれた環境を呪うストイックなモッ君。椅子が高いだろうが、それば対応するしかない。在るべきものが無い時助けてもらえるなんて甘い。「再現するとかじゃなく、表現することこそ大切なのだ。ツマミで音を出すのではなく、楽器で鳴らすという簡単なものではなく、体で鳴らす、魂で届けるんじゃぃ!」とモッ君。ここでも大切な何かを再認識させられる事となった。オープン前、店を閉めたヨナルテがライヴハウスVOIDへ合流。初日に持ってきた全ての絵画が完売。おめでとう!何かおごって!初日に完売なんて本当凄いよね。21:00時スタートで4バンド。1番手、CHAYIRE ポストパンク、エモ風のハードコアバンド。Bass cho、G cho、Dr cho、リードボーカル、若い子に見える。勢いがあってみんなのコーラスがきれいで切れも抜群だ。地元のファンにも愛されているようだった。皆うまい。2番手LACASAFANTOM 最初フロアに俺が入った時、ドラムが立って叩いているのに何故バスドラが聞こえるのかと思った。がしかしそれは195㎝はありそうなガリガリの大男が叩いているからだった!それにしてもガリガリだ。減量中の力石徹のようだ。ベースの男ももみ上げこそ少ないものの、その風貌はウルヴァリンを彷彿させるバーバリアン。まるでアッパーカットを喰らったように顎を突き上げ頭上にセットされたマイクに向かってデスボイスを放つスタイル。ベースの男とのツインボーカルなのだがズカズカ突進するパートもあればフューネラル調のリズムもある。基本はミドルテンポのクラストコアのようだ。ガリガリ過ぎて恐ろしさを倍増させている。2ピースバンドだがこのLACASAFANTOM 見どころが沢山あって魅力的だ。DOOM好きにはおすすめ。3番手はBIRUSHANAH お客さんの心をわしづかみにしてやるぜ!と張り切っていったものの空回り。となるのはたくさんだ!落ち着いていこう。初日だから落ち着いていこう。慌てずにね。「うおぉぉぉ~こんばんは~!おおさかから来たBIRUSHANAHです~!ヨロシク~!」佐野が流暢な関西弁で挨拶する。テンパり気味だ。ヤバい、これは空回りするパターンだ。落ち着かなきゃ!1曲目 ANAGURA ショートバージョン、この曲はフランスのレーベルでリリースしている為にここフランスでやる最初の曲でふさわしいだろう。冒頭の歌詞「照らせ照らせ異国の太陽」キャパ300くらいの薄暗いVOIDの空間に響き渡ってゆく。こんな変な曲でごめん!!こんな変な編成でごめん。でも、これが俺達の出した答えやねん。とにかくこの俺達が作った曲を聴いてくれ!因みに「テラセ」とは「靴紐を結ぶ」って意味になるらしい!どないなっとんねんフランス語!いきなり「靴紐を結ぶ」って歌われてもほんま意味わからんやろな...!とにかく聴いてくれ!あっという間の40分だった。こんな変テコな俺達の音を寛容な気持ちで聴いてくれた...!友愛の国フランス国民には本当に頭が下がる!メルシーボクと最初に挨拶して、ANAGURA、車輪、瞼色の旅人、鏡 の4曲を披露して終了。なにかしら伝われば満足だ。最後はトリMONARCH彼らはこの周辺500m圏内に住んでいる。レコードショップに職場もこの近くなのだ。いわばホームタウン中のホームタウンだ。仲間、家族、ブービーのお父さんも来ていてステファンの嫁はん、ヨメファンも来ている、皆沢山沢山来てくれているようだ。日本ツアーであいにく病欠だったエミリーも久々に入った編成で見るMONARCHは最高でアンプの音も最高で人々も最高でアフターパーティーも最高だった。素晴らしい夜をありがとう。
佐野泥酔してうんこ踏みまくりで帰宅。シラーン宅が、一時騒然となる。
3月31日晴天
ベンニューに着いてリハ終わり、佐野が髭剃りとタオルとか欲しいと言うので、近くのリトルインディオという街へ買い物に行く。日本でいう所謂チャイナタウンのインド版だ。果てしない規模のインド系ショップ群だが、やっぱり何処を探しても野菜やら、鶏肉やら、魚やら、兎に角見渡すかぎり食材や特に香辛料ばかりで、日用雑貨など全く見当たらない。それより何より初めて目にする無数の香辛料が魅力的すぎでカレーが作りたい。一生をかけて研究する価値絶対あるわ!たかが髭剃りごときを小一時間ほど探し、ふと目に入った散髪屋さん。俺は佐野に
「散髪屋さんカミソリ扱ってるから髭剃り売ってくれるかもやで!一回聞いてみようや!みてみ客モジャモジャの髭剃っとるでほら!」「なるほどそうっすね…!ちょっと聞いてみますわ!」そう言って佐野は香辛料屋さんと肉屋とが隣接する狭い細く埋もれた路地にある散髪屋へ入って行く。「Excuse me!Can I Buy Saever!?(すんません!髭剃りって売ってもらう事出来ますかねー!?」「What!?Yes.shit down there.」えぇ!?ああ?イケるよそこ座って」「ノーノー、アイウォナシェィバー、アイウォントバイシェィバー!」「だからそこ座ってって!!順番来たら呼ぶから座ってまっといて!順番やから慌てんなよ!」「いや、ここで髭剃るんやなくて、あの、髭剃りを買うの無理っすかね!?髭剃り、髭ソーリー持って帰るオーケー??髭ソーリー」「えぇ!?無理!」店員も客も皆んな「こいつ何ゆうとんねん」みたいな感じの表情になり帰った帰ったみたいにあしらわれてしまった。佐野はガックリ肩を落とし散髪屋から出てくる。仕方ない。国が違えば事情も変わってくる。それに旅の恥は掻き捨てだ気にする事は無い。まぁ日本でも髭剃りを買って持って帰れる散髪屋は少ないと思う。いや無いと思う。俺達は途方に暮れ半ば髭剃りを諦めかけたその時、しかめっ面の愛想の悪いおばさんに「あそこの道を右に曲がって左側にある店なら買えるんちゃうかフン」と教えて貰った。そうして俺達は無事に髭剃り買えたのだった。こいつは切れ味凄そうやで!インド人嘘つかないってホンマやな!じゃ会場に戻ろう!

Chaos Et Sexual
シンセノイズボーカル兼パーカッション、上手にギター、下手にベース、ドラムレス。下手に2人並んでプロジェクターがいる。アンビエントストーナーノイズドゥーム。ギターの多彩な音色、変調、変則的なリズムに惹かれる、ほんの僅かしか無いギターのコーラスパートも、これがまた上手く憎らしく思えた。本人らが言っているのかバンド名の下にGangstaDoomとジャンル説明書きがある。アフロヘアのベース、ギターが金髪ドレッドヘアで、南米ギャング風だからギャングスタドゥームなのかな。

Extreme Precaution
数年前にも日本ツアーを行なった事があるという、ブレイクコア。独特な節回しと、強いメロディアスな絶叫がドキッとさせる。強引さと芯の強さを感じるソロアーティストだ。

birushanah
新曲『雨』『ハイニナルマデ』『鏡』アンコールで『瞼色の旅人』芸術の街パリの皆様にその気にさせられたっすありがとうございまっすありがとうございまっす

monarch
でかい箱でステージ映えするって良いことやでなホンマ!重たい重たい石材を積み上げ削って行く様な重厚なステージだった。

打ち上げは客の誰かの家でオールナイトChaosparty、部屋の敷地面積は佐野んちの一階部分のふた部屋分くらい。そこで爆音でDJして夜通し踊り狂って酔い潰れてそのままくたばる。毎夜毎晩何処かのお店へ行く訳でもなく、ホームパーティが中心なのである。今度佐野んちでもChaospartyしようぜー!隣近所のじぃちゃん、ばぁちゃんも呼んで!

4月1日 晴、夕方から夜中まで少し雨
おはよう。昨日リトルインディオで買った髭剃りの切れ味が凄すぎで佐野の鼻の下がカミソリ負けして真っ赤っかになっている。インド人とは違い日本人の髭の柔らかさ及び肌の脆弱さを露呈する結果となってしまう。
移動して現地のオーガナイザーに会ってBirushanahです今夜はよろしく。と挨拶する。こんな遠い異国の地であっても、ミシェルを始めモナークは各地に素晴らしい友達が沢山いて素晴らしい。佐野やモッ君はともかく、俺なんか隣近所でいがみ合ってばっかりやった。負けてたまるかみたいに頑張ってるつもりで生きてたら、人間が嫌いになってた。オカンなんか毎日どっかで喧嘩して帰って来てた。遺伝なんかな…。皆んなが羨ましい…。
文化交流といった場合はともかくとして、イギリスのEU離脱トランプ政策など、近年特に戦後寛容だった移民受け入れや国境、雇用などに意義を唱える風潮がある。旅を続ける俺達としては国境とか民族とかそんな事より人類皆兄弟!仲良くしようや!と実に身勝手に考えてしまう。
崖を削り壁に沿った岩石に柱を差し込む伝統的な家づくり。今夜の宿泊場だ。無数に本がある読書家の家みたいだ。荷物を置き、先に街を案内してくれる。
焼肉ゴエンと焼肉ゲンの間のような発音『ゴェゲァン』ホワン。 黒死病ペスト。 ジャンヌダルクなどで知られる街だ。教会の鐘の音や敷地、大きさが映画で観ていた想像を遥かに越えていた。佐野が「日本の神社とか寺とかと、どっちが頑張ってるっすかね!?なんかこっちの教会の方が凄ないっすか!?俺ビビってるんすけどガクガクブルブル…」「んー、分かるけど、伊勢とか出雲とか、薬師寺とか法隆寺とかもすごいで!?あの、鈴虫寺の坊さんの説法とか、そうや!道成寺の絵解き説法とかええで?確かにこの教会も凄いけど、うーん日本も、大和民族も凄い頑張ってると思うで確かに教会滅茶滅茶凄いけどでかいしうん…ガクガクブルブル…」こんな遠い異国の地でライブを主催してくれてありがとうございます!思いっきり楽しんで演奏させて頂きます!ガクガクブルブル

GLAYFELL
ドゥームメタル、ストーナーロック。シンセサイザーボーカルとギターボーカルの叫びの掛け合いが絶妙で安定感及び睡眠感がハンパない。腰があってブレが無いので安心して聴ける。皆歌上手い。
Birushanah
アナグラショートバージョンから、車輪、瞼色、濫觴でフィニッシュ。皆ビビってたんちゃうかな!たぶん!きっと!
Bungalow Depression
バイオリンとノイズのアンビエント。女の人1人でフロアに降りて演奏。立っていたお客さんが座って聴く。連戦で荒んだ戦士の心と旅の疲れが癒されるひとときだ。
Monarch
ジョモワーンって凄いええ音です。往年のドゥームメタルファン老若男女が集まる毎夜毎晩納得のイベント締めをありがとう!夜打ち上げ!びびるぼど美少年だった客の子が実はゲイである事を告白!ギターのステファンに何度もアタック!ステファンは老若男女にモテまくりだ!
もっくんが「ゲイって堂々と言える社会って進んでますよねー!ホント!」と意味深とも取れる発言をした。

4/2曇りから晴れ
移動三、四時間くらいオーガナイザーへお礼を言い、次の街ブリュッセルへ、ハイウェイから見える景色、桜の花、菜の花畑、ちょうど日本も花見のシーズンだなと故郷を想う。向かうのは去年も行ったマガサンキャットというベンニューだ。川沿いにある倉庫群を改装して作られた創業20年からなる歴史のある箱だ。PAのオヤジがチャールズブロンソンの日本語吹き替え版の声優さんくらい低音の渋声。また帰って来た。ここは兎に角音が凄い。PAの声もええ音やけど、箱も超ええ音、ジュワーって染み込んでくる様なキメの細かい超高音質の低音。キャパ500位の箱で、経営もボランティアから成っており、バンドアパートも完備されている。まさにアングラのお手本中のお手本と言えるベンニューである。しかし近年土地開発の波に晒され、存亡の危機に立たされているらしい。取り壊しや移転を迫られる中、ミュージシャンや協力者、関係者のデモなどによって一旦は回避されたものの、今後もこの厳しい戦いは続くだろうという話だ。何処にでもこんな問題はある様だ。どんな事でも当たり前にあると思ってはいけない。居場所は自ら勝ち取っていかなければならないのである。我々も今日この日もここマガサンキャットでライブ出来る事に感謝しなくてはいけない。

AGGOkK
変則ドゥームsludgeメタルトリオ。重厚かつmiddleテンポの曲、デスボイスに強いリズム感を凄く感じる。ベースもトリッキーなパートを多用して良くギターと絡んでいる。しかしこの手には良くあるドラムのねちっこさがあまりなく、もしろ淡白でストレートなアプローチが多く、独立的でかつ変則的な軽快さを強く感じた。まだ若そうな3人で今後も楽しみである。

Birushanah
雨からアナグラ、ハイニナルマデ、鏡、ここの箱の鳴りが良いので、モニターの自分の声プラス山彦的な自分の声で凄く聴きやすく、リズムを狙いやすく歌いやすい。山彦的なモニターは以前奥多摩での野外ライブで初めて体験して、その歌いやすさに驚いた。それ以来俺はその事を山の神が力を貸してくれたモニターと称し『山の神モニター』呼んでいる。
ここマガシンキャットでも山の神モニターを感じる事が出来た。ありがとう山の神!お陰で物販売れてウハウハっす!

Monarch
締めは奴らだ。ここの音響システムを遺憾無く発揮しての素晴らしい演奏。ここで新曲を披露。原始的なビートから、ささやく様な美しいエミリーの歌声。これからまだまだ次のレヴェルへ挑戦していく事への意思表示を感じる曲だった。やはりエミリーの存在感は凄い。本人らも納得のステージだったのだろう。演奏後も上機嫌だった。

4/3 月曜 朝霧、昼晴天
昨夜は打ち上げ無し、バンドアパート完備なのでいっぱい寝れたよ。朝からハァハァ女の荒い鼻息が聞こえてきて、興奮した俺は辺りを見回す。するとなんとエミリーが!なんとエミリーが!床で腹筋と背筋をやっているではないか。エミリーと目があった俺は「あ、ごめん!、」ってつい謝ってしまった。なんで俺あやまんねん。「いいのよISO、私毎朝やってるの」余談だが昨年日本ツアーでサポートさせて頂いたMoeの女ベースボーカルのGuroは朝出発前の時間より早めに起きて、周辺をランニングしていたという事もあった。トップクラスの花形シンガーは皆、闇練してるんやな。凄いで!俺も小顔にする為に顔面体操やろう!
今朝も朝から機材積んでから次の街へ移動や!「ウンガァー!」ローディ兼ドライバー兼PAのポップは怪物並の仕事ぶりで、今日も元気モリモリで運転だ。ポップは移動中、居眠りしてたのかタンクローリーに追突しそうになったので、急ブレーキ!俺はシートベルト着用!カチャッ!反対車線で三車線を塞ぐ大事故横転したトラックから無惨に飛び散る金属片肉片や積載物。ハイウェイの周りは殆ど平原というか草原というか畑ばかりなので、皆んなどの車も身動き取れず超大渋滞だった。カチャッ!ここで佐野もシートベルト着用!安全よし!
車内で佐野は各地のベンニューやオーガナイザーが用意してくれた朝食や夕食の残り物の野菜等をキープしていて、初日にリザーブしたレタスの袋を開けると、もう既に殆ど腐っていてレタスの漬物みたいになっていた。それを「美味しい美味しい!」と言って貪っている。ほんまうまいんか…。その後イワシの缶詰めの残りをサンドして腐ったレタス漬物もサンドして、イワシの缶詰めと腐ったレタス漬物サンドを手早くクッキング。車内は本当に異様な空気に包まれる。臭い本当に。佐野は逞しいな本当迷惑だなほんまはらたつな。
5、6時間位の移動でハンブルグに着く。FCザンクトパウリで有名な港町だ。スクランブル高架下にある小さなベンニュー。どこか大阪の中津の高架下に似た風景だ。ボロい木のドアを開け中へ入るとバーカウンターの男が案内してくれる。「よく来たな、全員フレンチか?おゃ、日本のバンドもいるんだなヒヒヒ…なんか飲むか?フフフフ、ん?演奏前は飲まない?そいつは良い事だクックック…ケーッケッケ」話した後に不気味にほくそ笑むシリアルキラーな雰囲気の痩せた男が言う。すぐ後から続いてオーガナイザーが到着。「ようこそ!今夜はソールドアウトだぜ!狭いから大変だよガハハハ!」こちらも話した後に豪快に笑い飛ばす超陽気な大男。荒くれ者の集まるこの街ではこれくらいのサイコパスさが丁度良いのかもしれない。始まる頃に続々とお客が集まる。9時スタート比較的若い層のお客ばかりな雰囲気だ。そしてドイツに移り住んでいる寿司職人のボンバー君が観に来てくれた!終電が10時40分位らしくて、ダッシュで帰らなくてはいけないという。ありがとうボンバー君!
Monarch
横長な小さなベンニューなので、アンプ類を中央後方に集め左下手ドラム、上手ボーカル。その他を中央前方。40分セットで新曲も披露。沈黙黙殺するような静寂パートもあるのだが、ここハンブルグの若いドゥームファンは私語を一切せず黙って静かに味わうように聴き入っている。不気味に静まり返る会場内。今までのベンニューは酔っ払いが馬鹿騒ぎしていた事が多く騒がしかったのだが、こういった場面でドイツ人の勤勉さが分かるといった所だろうか。

Birushanah
上手奥にドラム、下手にパーカッション、ギターボーカルば中央でのセッティング、セットリストはアナグラショートバージョン、車輪、星々の名残、瞼色の旅人。この手の小さな箱は得意と思っていたが、左右にドラムとパーカッションと振られると若干戸惑った。こんな事もあろうかと日本で色々なフォーメーションで練習したので慌てないよ!
今夜は月曜という事もあり、ライブ終了後はお客も箱も早じまい、すぐ近くのバンドアパートに泊まる。洗濯機と乾燥機あったので洗濯する。エミリーは皆と洗濯物一緒になるの嫌っぽいので別で洗濯!

4/4曇り
朝8時起きで、機材を積み一路デンマークコペンハーゲンへ、佐野サンドの材料の在庫が底をついて来たのでスーパーで補給。もっ君も元木サンドを研究開発。車の中で互いのサンドの膨大なデータを共有し日々研究している。「なんか胡椒とか薬味も欲しいな…。あと銀の食器とか盛り付けにもこだわりたいな」「ソースマジ大事っすよね」などと言っている。佐野サンドとは、元来ツアー中の食費を抑える為に実施していたのだが、もはやその目的を見失いつつある様に思える。何事もそうだが、始ったきっかけと、ゴール地点は本来の目的とは変わる事がある。初期衝動から生まれるアイディア、派生、そして様々な昇華。文明と文化のそれぞれといった所である。しかし結果もさることながら大切なのは行動であり、それこそが近年取り沙汰されるAIと我々生物との決定的違いなのでは無いだろうか。その事を佐野サンドと元木サンドは証明してみせたのだった。それはそうとドイツは、物価が安い気がします。フランスの3割くらい安い感じ。スーパー玉出クラスに安いのに外観は清楚で美しい感じ。あと店員も奴隷みたいに決して疲れてない感じ。

GAIA
地元の若手ドゥームバンドだろうか。メガネギターボーカル、ドレッドヘアドラムス、タトゥー総身彫りベースのトリオ。静寂な黙殺パートに、序盤はホーミーの様な音波を放つボーカル 。一音一発を大切に奏でる美しさが光るベースとドラムス。オルタナティブな要素と神秘的なハーモニーを放つ歌メロとギターフレーズ。暴力的な要素は全く感じられず、美しく漂う重厚感を感じるまさにガイアの躍動。

Birushanah
アナグラ、雨、瞼色の旅人、鏡
PAのポップがスネアマイクを立て忘れていたのをもっ君が気付き、発狂。「ポップー!!なんで何回も言ってんのにマイク立ててへんねん!もぅー!あぁぁあー!もぉぉぉー!キィィー!アゥァゥアアアーー!」慌ててポップがスネアマイクを立てに来たが、瞼色の旅人が通常の二割り増しの速度になって俺も佐野もテンパる。佐野は特に足ガクガクになり、後から聞いたがウンコを漏らしそうになったという。
Monarch
日増しに濃くなってゆく彼らのクオリティ。グルーヴ感が演奏時からも勿論だが、それ以外の時間でも感じる。大切なのは人間同士の通じ合い。絆を強く感じる。その事が手に取れる美しい演奏だ。
佐野が日本で火影のブッキングで世話した事があるノルウェー人の友達2人が観に来てくれた。持つべきものは友達やで!

4/5朝から霧雨
ホテルの朝食ブュッフェでそれぞれ起き出し集まり「おはよう」もっ君が「Do you know Asadach?」とエミリーに尋ねる。「My chinko is Asadach evrymorning.」エミリーは寝起きでぼんやりダルいめんどい気持ちを押し殺した精一杯の引きつった笑顔で「Asadach?何それ?」と答えてくれる。「Asadach はフランス語でなんて言う?」「じぇ ら ごぅおうる どゅ めぁてぇぁん」私は、朝ちんこが立っています。と後からテーブルに着いたシラーンが教えてくれる。
朝食を終えて移動。デンマークとスエーデンの国境の橋に差し掛かる。過去のツアーではほぼいつもスルーパスだった記憶があるが、今ツアーではテロの影響だろうか毎回道路脇のスペースに誘導されパスポートを検閲される頻度が高い。ムキムキマンなポリスか軍人かが、一人一人のパスポートを検閲し「君らバンドツアーか?」一同「YES」「スピードメタルか?ヘビィメタルか?」エミリー「ドゥームメタル!」と答える。「オッケードゥームメタルか。良いツアーになると良いな」一同「サンキュー」無事スエーデン入国だ。そうこうしている間にノルウェーの国境。今度はスルーパス!続けて無事ノルウェーに入国だ!そしてユーロニモスが働いていたレコードショップHELVETEへ、ブラックメタルの聖地、ここへ来れて嬉しい。地下練習場跡へ潜るとコンクリート剥き出しの冷たい暗い中にふた部屋程あり、手前の壁にはBlack metalの文字が黒いラッカースプレーで書かれている。銀色の玉座に座って記念撮影する観光客と思しきカップルが2人。無造作に横たわる棺桶には本物の人骨が入っている。ノルウェー政府もここを観光資源と認定しており、保護存続の為の資金が出ているのだという。

着いたBLIZSというベンニュー、名だたるバンドのフライヤーが壁に貼ってある。今夜もデカ箱だ。
DWAAL
シンセボーカル、ツインギター、ベース、ドラムス。5人編成、単調なエイトビートを延々と叩き続けるスキンヘッドムキムキマンドラム。冷徹マシンのプログラムのように正確過ぎるリズムに、ビンテージギター、アンプがノスタルジーに絡み合う。少しアダルトなストーナーといった感じ。

Birushanah
雨、車輪、鏡
デカ箱特有な音の籠り、低音の回り的なものがあまり無く、音抜けが非常に良かった為、無理なくやりやすい箱だった。

monarch
安定の安心の演奏。音圧とハーモニーが美しく物凄い。アンコールもあり大盛況Discloseのカバー曲で締め。
そのまま夜ベンニューの、最上階のホテルで就寝。螺旋階段が張り巡らされており、「ここ何階」って表示が全く無く、たまに迷子になる。

4/6曇
移動6時間位、デンマークからノルウェースウェーデン各国で通貨が変わる為、毎度物販の釣り銭に困る。今夜のベンニューに到着。緑の髪の毛の三つ編みのお下げ髪の男が出迎えてくれる。皆ファッショナブルやな。広い会場で手作りな感じの箱。

PALMLESSE
地元のファストエモポストロックトリオバンド。左利きドラムが、力強く野生的なので、悲壮に満ちた暗いブラックメタルの様な展開の中でも、何処か逞しい野獣のような貪欲さを感じさせる。スウェーデンのイメージを裏切らない印象のバンド。年齢も若そうだ。

Monarch
安定の演奏と安心確実。メインスピーカーの調子がわるかったのか、ノイズがゴリゴリと走ってかなり気になってしまった。ドゥームメタルは静寂さとハーモニーの美しさ反芻する呪文の様に迫ってくるので尚ノイズか邪魔に思えた。
が柔らかとモワモワさで何とかカバー。お疲れ様です。
Birushanah
雨、ハイニナルマデ、鏡、アンコールで瞼色の旅人、
皆んな楽しみにしてくれていたみたいで、盛り上がったよ!ライブ終了後、オーガナイザーと箱のスタッフが手製のカウベル、ミニハンドパンをサプライズプレゼントしてくれた。また大切な宝物が増えた。ありがとう。
日付が変わると皆んながハッピーバースデーと歌って俺にフラッシュモブしてくれて嬉しかった。悪役のくせに、無茶しやがって!ありがとう!

4/7 曇デイオフ
早起き6時過ぎでダッシュでフェリーに乗る。6時間位フェリーの中で過ごす。9人で4人部屋を一つ借り、交代で寝たり、レストランで食事をする。11ユーロで食べ放題なので佐野は欲張って沢山取りすぎて食べれなかったゆで卵、ウインナー肉団子をそのままポケットに入れて佐野サンドの材料にする。スゥェーディッシュクローナのじゃり銭も使いきろうぜ。6時間が経ちドイツの港に寄港。前日ストックホルムでテロがあったらしく、国境警備に沢山の軍や警察が入念な審査。勿論我々のツアーバンは脇に停車させられ警察犬二匹に舐める様に調べられる。四、五十分の審査の末、入国パス。ほっ。途中のガソリンスタンドでブレイクし、もっくんが買い物の為に並んでたレジにドイツ人の大男が割り込みし、もっくんの溜まりきっていたフラストレーションが爆発!「んもーーー!ファックー!!」と言った。慌ててブービーが止めに入る。「短気だなモッ君、まるでティファールの様だ!」と言われる。夕方頃に宿泊するhostel近くの繁華街で食事。誕生日だがらと言ってMonarchが奢ってくれた。エミリーは大切にしていた石ころをくれた。石ころありがとう。皆悪役のクセに無茶しやがって!食事を終えると向かい側にあるバーからパンクバンドの演奏する生々しい音が漏れてくるのがずっと気になっていたので、我慢出来ず皆で見に行く。満員だ。大声で話しかけてくる2m近くの大男がヘルズエンジェルのメンバーらしく、佐野とモッ君がしばかれそうになっていた様に見えていたが、実は仲良しになってすっかり打ち解けていた。エロ話でもしてたのかな。夜hostelにチェックイン。6人部屋で、2人の他人と相部屋になる。佐野は泥酔で帰ってくる途中で野糞をし、紙が無かったから拭かずに帰ってくる。野糞はええとしてもちゃんとお尻拭けよ!うんこ、佐野サンドに付着するぞ!
4/8曇
朝方四時頃足がつって目が覚めた。俺はベットで横になりながらスマホをいじってたら、モッ君が大声で「ウンガーあぁー!ジュルル…ウンガーァァ!」と1時間おきに二度うなされていて、俺は何やねんて思っていたのだが、何と金縛りに遭って幽霊を見ていたのだという。幽霊はドアを開け入って来て、そのドアと向かい合った大きな姿見があるのだが、その中へスゥーッ…と消え入ったのだそうだ。確かにその時間にドアがふっと開いたのは俺も見たし、誰も入ってきた気配がしなかったから不審に思ったのだが、まさかそんなやり取りがあったなんて!俺も見たかったな!翌朝皆んなにモッ君が興奮気味にその事を伝えても皆に鼻で笑われる始末。
「モッ君は麻薬キメすぎなんだ」「ゴーストゴーストビビりだなモッ君はHAHAHA!」Monarchの奴等め!恐れとか穢れとか祟りとか呪いとかほんま!信じてないな!!しらんでバチ当たっても知らんからな!「佐野野糞ラストナイト、ノーペーパーウォッシュ!?オーノー!!糞佐野!オーマイゴッド、ガクブル…」Monarchはモッ君のゴースト事件より、佐野が野糞でお尻拭かなかった事の方への恐怖心をあらわにしていた。

一番手Birushanah
夜九時半を過ぎてスタート。雨、瞼色の旅人、ハイニナルマデ、濫觴。うん楽しかった!絶対皆んなビビッとった。
2番手Monarch
ここライプツィヒのドゥームストーナー等を取り仕切っていると言われるオーガナイザーが主催するイベントだけあり、ドゥームメタル、ストーナーファンで会場は超満員だ。圧縮され放出される超爆音と美しいハーモニー。黒い振動が身体を透過してゆく。その黒い放射性音圧を浴びたものは皆、黒潮に乗るイワシの様に揺らめき泳ぎだす!

4/9晴れ
昨夜のアフターパーティーで、狂ったおばさんがスパンコールみたいなキラキラをばら撒いていたらしく、もっくんのアフロヘアにキラキラが沢山めり込んでいる。アフロの奥深くにめり込んでいる為、全然取れない。多分レイコップで吸い込まないと取れないだろう。
四時間くらいチェコ方面へ移動すると、骨だらけの教会へ到着。観光地のようだ。大阪でいう一心寺の骨の仏さんみたいなもんかな。ペストで沢山の人が亡くなってここへ埋蔵されたらしい。著名な教会のようだ。その後2時間くらい移動し、数キロは続くグラフィティーアートの続く線路沿いを走り、今夜のベンニューに到着。ボロボロの倉庫、楽屋は野外の大きなサーカス団の楽屋の様な野戦病院天幕、若しくは難民収容天幕の様な作りで、レジスタンスの様な革命軍荒くれ者達が、不器用そうなそのデカい二の腕をやはりぎごちなく操り男の手料理を振舞ってくれる。ココでは全てがDIY。
一番手Birushanah
八時を少し回ったところで、俺たちからスタートだ。リハーサルが少し押した為に、俺たちのリハーサルに前乗りして来た客と思しき変人が一打一音に(るららー!んごごー!ウァァァーー!」と奇声にも似た歌を歌って大荒れしていたのだが、本番になると居なくなっていた。あいつは何だったんだ。
2番手monarch
少し興奮気味だったのか、テンポが速く感じた。しかし安定安心信頼の重厚さ。エミリーも可愛すぎた。

3番手DIS
イギリスのブラックデスメタル。昨日までMAYHEMとツアーをしていたらしいビッグバンドだ。ボーカル、ツインギター、ベース、ドラムスの5人編成。息をもつかせぬ高速ドラムに洗練されたスピードリフがハモリを効かせながら押し迫って来る。引きこもり体質を演出する様に、ドラマーを除く全員が最初から最後まで客席に背を向け演奏。ずっと自分のアンプとのみ意思疏通している様だった。照明も暗く、スモークが終始焚かれ、ステージ中央には身の丈を越す程の巨大な燭台があり鹿の角や山羊の骨が装飾されている。なので後方からステージをながめるとほんとんどメンバーのその姿を確認出来ない。そのせいで、卓越した演奏技術と高音質も手伝って、まるでDJがレコードを回しているだけにしか感じない時もあった。そんなに頑張ってるのに上手いのにもっといちびっていいねんで…勿体無や。佐野なんかボロボロの鳴ってるんか鳴って無いんか分からへん銅羅持って叩けてるんか叩けて無いんか分からへん匠の技で客席飛んですっ転んで、外国やのに流暢な関西弁でオラオラでおもくそいちびってんのに。ホンマ控え目な子らやで勿体無い!!夜は共同宿泊ホテル、三段ベッド。今夜の出演者スタッフなど皆んなで仲良く泊まった。

4/10オフ晴れ夜雨
早起きしてPrahaの街を観光。プラハ城も観たよ。ずっとベジタリアンフード、ビーガンフードばかり食べてたので、肉片、肉塊が食べたい事をmonarchに伝える。ミシェルが何故ベジタリアンだったのにそうでなくなったのか、その経緯について尋ねる。「昔ケンカして、相手ナイフ持っててそのナイフを両手で押さえてたから両手塞がってて、噛みつき攻撃して相手の唇咬みちぎって食べてしまってから肉食われへんなってもてんけど、三年前くらいに久々肉喰ったらめっちゃ上手くてそれ以来ベジタリアンやめた」なるほどミシェルにはそんな過去があったんだな。あぁかゆいうまい。
4/11晴れ
今日はロングドライブ、8時間くらい走って途中でポリスに止められて、渋滞もあってギリギリ到着したぜチューリヒ!すでにお客さんいっぱい待ってるやん。
一番手TUER
オールドスクール本格派グラインドコア、男女のツインボーカル、ギター、ベース、超高速ドラム。ギターが後ろの方でジュゎゎジャワゎゎーシャワーの中でドラムが軽快かつキメキメをデッデッ!昔のナパームデスみたいで良いな懐かしす!
2番手monarch
渋滞もあってサウンドチェックできなかった中でもしっかりと形にしてくる。先のグラインドコアバンドの様にスピードで勢い付けて形にする事と全く正反対と言って良いドゥームメタルバンドは、こんな状況でその弱点が出やすく思うが、そんな事は問題にしないパワフルな演奏だった。Monarchはやはり、アンプが鳴っているのでは無く身体が魂から音を鳴らしてる事を強く感じるライブだった。

3番手birushanah
アナグラ、車輪、瞼色の旅人、鏡
トリをまかせて貰いました。ここチューリヒでは昨年に続き大変良い思いをさせて頂いております。ハイ!ありがとうございます!また来ます!夜は高級ホテルに宿泊!

4/12晴天
早起きしてオーガナイザーと共にホテルから出る。皆んなで輪になってオーガナイザーとハグだ。その時「ブリィィイ!!」と屁が鳴る。エミリーのいる付近だ。「ノー!私ちゃうわよ!」と言ったが、皆んなこれ以上追求する事はしなかった。初めて行くイタリア。窓から見える景色は今での感じとは違い2000メートルを超えるアルプス山脈の険しい山岳地帯が続く。岩石質の強い山々、巨石群を見ていると祖国を思い出す。滝もある。日本だとみんな神として崇めたくなる様な立派なものばかりだ。空も鮮やかなブルーでまさにツーリング日和だという時に事件は起こった。イタリアとの国境付近で検問にかかり、約90分に渡り身ぐるみ剥がされ検査。麻薬犬2匹が綺麗に一列に並べられた個人の荷物を順番に嗅ぎ進む。無駄じゃそんな事しても無いもんねこのクソ犬あほバーカと侮っていたら、物販の箱を開けられ、中から昨日の物販の値段表を引っ張り出された「これは値段表やね?君ら商用ビザは無いよな?無い場合は売り上げの数パーセント税金がかかるのは知っとるよなぁ?クックック」「いや、全然売れてないんで金ないっすよ!マジで!」と言ったのだが誤魔化しきれず100ユーロカツアゲされてしまう。あのクソ犬、金の匂い嗅ぎ分けてたんか!賢いやんけー!このアルプスの絶景を台無しにするには十分な事件だった。アルプス嫌いじゃ!ヨーロッパツアーする時は気を付けて。皆んな、前日のライブの物販値段表はちゃんと始末しておこう!
ミラノの街は近代的な街並みで、日本の団地の様な所もちらほらみえる。御堂筋の側道に似た所で車が止まると今夜の会場だ。25メートル四方の石造りの立方体で二階には複数部屋があり、その各部屋の中では絵を描いたりアーティスト達が作品作りに熱中している。元々銀行であったというこの会場は廃墟ともいえる決して綺麗なものとは言えないが、バンド演奏の音を増幅させるような言わばオペラ座の様な音の響きがあり、ちょうどお風呂で演歌を気持ち良く歌えるようなエコーの効いた状態。WALKMANで言えば「HALL」のポジションだ。煌々とした蛍光灯やLEDライトも無く薄暗い中でセッティングが行われるが、天井一面の天窓から降り注ぐ街の灯り月の灯り星の灯りがアーティストの今夜の仕事ぶりと緊張感、アートな雰囲気を更に美しく醸し出してくれる。大広間と別にある奥の別室と今夜は2ステージ使ってのショーだ。
奥の間一番手birushanah
雨、ハイニナルマデ、鏡、
夜10時半頃にスタート。俺の勝手なイタリア人のイメージ通りだった、巻き舌で勝気な河内弁を話す乗りのええオッさんオバはん達が、俺たちをすっかりその気にさせてくれる。ライブ終了後直ぐ大広間のDOLPOがスタートしたために、アンコールに応えられなくて心残りです。
また次来た時今夜のアンコール分を演奏させてくれよな!グラッチェ!

大広間二番手DOLPO
ドローンアンビエントリチュアルミュージック。6人の髭もじゃ男達が座奏。メインのドラムの原始的なリズムに3本のビンテージギターが乗り、ベースで円やかにかき混ぜるところへ、アイリッシュな手漕ぎバグパイプ管楽器やアジアンな篠笛、テルミンなどの民族楽器が糸を引くように混ざり合う。バックにはプロジェクターが設置され、様々な人種の映像が投影される。そして何よりこの独特な会場の箱鳴りが、終始幻想的な雰囲気を醸し出している事に疑いは無かった。まさに全てが絡み合う発酵音楽といえるものだった。

奥の間三番手monarch
トリはmonarch。いつもの美しい旋律に加え今夜は、このオペラ座の様な響きのある会場で、重厚な音が共鳴し合う。エミリーの美しい声が響きわたる時、会場には不思議な雰囲気がうまれなんとも言え無い悲愴に満ちたある種の栄枯盛衰さを感じた。
夜はこのままこのベンニューの二階の寝室へ泊まる。

4/13晴天
ミラノでpizzaもcoffeeもPastaも食べそびれた我々は次の街、モンテペリエへ向かう。7時間から8時間位の移動だ。フランスとの国境辺りでまたしても検問に掛かったが無事に突破し入国できた。エミリーが「あのクソポリスども何回も何回もホンマ偉そうにしやがってピタン野郎が!なぁイソ!ムカつくよな!」と言う。
ここモンテペリエは学生などで多く賑わう街で、今夜は昨年もお世話になったBlack sheepというベンニューでライブ。またここへ帰ってこれて嬉しい。ここはとても綺麗に片付けられていて、バーとは別になった地下の石造りというか掘り削られた様な穴を降りるベンニューが静かで妙に落ち着ける雰囲気がある。「Black sheepがあった辺りは昔刑務所があってghostがめっちゃ出るぞもっくん」とミシェルが話してしていたを思い出し、なるほどこの静寂はその名残かな。罪人達はこの静寂の中で何を思い過ごしたのだろう。感慨深かし。今夜の一曲目の選曲は新曲『雨』に決めた。この曲は悪党や卑怯者と罵られ死んでいった奴らの無念さを歌った歌で、その実は生き延びつないだ子孫こそが、我々を含めたその者達がそれに該当する悪党達なのでは無いかという歌で、言わば死んだ英雄と、生き延びた卑怯者との相反する様な生涯と、決して逆らえぬ自然の摂理と因果応報を歌った曲だ。よっしゃ!今夜ここで罪人達への鎮魂歌を贈らせて頂くぜ!こみ上げ奮い起つ気持ちを抑え、俺はミシェルが言っていたその刑務所の事をエミリーに話してみると「え?刑務所!?あぁ、多分ミシェルの嘘やでもっくんびびらす為のジョーク!嘘やで嘘!」という。嘘なんかい…。でも良いや…一曲目は『雨』じゃ!

一番手Monarch
地下の張り巡らされた空間を包み込む様に満たす様なダークマターが今夜も客を呑み込んで行く。このBlack sheepの事を知り尽くしているMonarch。安心確実信頼と実績。いつもより数段も濃い影を落とすショーだった。

二番手Birushanah
雨、車輪、鏡、(アンコール瞼色の旅人)
ロングセットの三曲で、学生の若いエナジーを目一杯感じた!俺たちの罪を受け継いでくれよな皆んなありがとうっすありがとうっす!もっくんは学んだフランス後で、「じぇ ら ごぅおうる どゅ めぁてぇぁん」私は、朝ちんこが立っていますとMC。佐野は曲の途中でゲー吐く。
ライブ終了後、バーで飲んだり、隣りにあるゲーセンでもっくんとシラーンはストリートファイターをプレイ。シラーンは本田を使うらしく、もっくんと佐野はケンを使うって言った途端、シラーンは「ケン!?はぁ、ケンって弱、ケンって何出来るん?」と鼻で笑われる。もっくんとシラーンの勝負の結果は一勝2敗。シラーン鼻で笑ってた割にケンに負けとるやんけ!まだまだケンの深さ分かって無いんちゃうか?佐野が小学生時代、ゲーセンでストリートファイターをプレイしている時、持ち込んでいたゲームボーイをゲームの台横へ置いてプレイに熱中し過ぎ、置いていたゲームボーイに目を離した隙に誰かにパクられた事を思い出し怒る。しかも友達から借りてたゲームボーイだったらしく、両親が弁償する羽目になり佐野は親にこっ酷く怒られた。佐野家は当時ミロも買って貰えない程貧しい財政状況にあり、このゲームボーイ事件は佐野家の財政を破綻寸前にまで追い込む事件だったという。ゲームボーイでミロ何杯分飲めるやろう。俺は気が遠くなる様なミロの量に目を細め途方に暮れた。
夜はここBlack sheepでライブ終了後慣例のレンタルルームで就寝。

4/14晴天

このツアーは天気に恵まれてる。昼頃にルームのオーナー(美人ミルフ)が朝食を届けてくれる。「おはよう貴方達のパンを届けに来たわよ」もっくん「じぇ ら ごぅおうる どゅ めぁてぇぁん」私は、朝ちんこが立っています。
「記念にこの訪問ノートにメッセージとかどう?」ノートを開くと著名なアーティスト達の名前がズラリと並ぶ。俺たちもメッセージを書き残して記念撮影。ありがとうございまっすありがとうございまっす。
5時間位の移動後今夜のベンニューへ到着、早速オーガナイザーとの顔合わせ、広い施設内を案内してくれる。外観こそボロいが中は設備が整っている綺麗なバンドホテル一体型のベンニューだ。ここも同じく若者達で協力し合いアートという共通の価値観を持って運営している空気を強く感じるベンニューだ。
20時間半を回った頃スタート。
一番手birushanah
雨、瞼色の旅人、鏡
よし皆んなひびっとった!「イェー最高ー!お疲れー!」やたら日本語うまい客がおるな思ったら、カオリさんっていう東京アースダムで観に来てくれた事があるって子がおったんか!ありがとう!
二番手Monarch
もうツアーセミファイナル、ドラムのブービーは目一杯力一杯ドラムを叩くので、ドラムセットがあちこちガタがきている。ミシェル、シラーン、ステファン、ブービー、皆んな頬、顎、首に濃くなった無精髭が茂っている。いよいよ大詰めを迎え尚精力的なパフォーマンスをみせるエミリー。今夜も腰のある意志の強さを感じるライブだった。
三番手Milkkiro
ドラム、5弦ベースのツーピース、インストゥルメンタルマスロックバンド。軽快なmiddleテンポラインが中心で、ウァウペダルをその音裏にハッとする様なトリッキーさで埋め込み、テンポダウンする際にも無数に並べられたエフェクターを巧みに駆使。様々な音色で空間を歪ませる。天井の照明は消され、ステージ床足元に設置された二種類の照明をフットスイッチで展開に応じて切り替える演出。

ここから朝までテクノ、DJ、クラブイベントに突入。
ノイズテクノにフランス語のMCが可愛く新鮮に感じたToys Partyというユニット。そして特に気になったのがSUPAR PARQETというユニットで、アイリッシュ、フランス民謡などを取り入れているようで非常に面白かった。2人の大男のシンセと手巻き式の木箱を内蔵したシンセもある。バンジョーと一本のアルトリコーダーにもう一本細めの管を平行に並べ繋いだ笛、歌口にはゴム管が装着され、そこからホースが連結されており、ホースの先を辿ると大きめな袋がある。その袋を両脇に挟み、ポンプ式にエンドレスに空気を送り奏でる仕組みになっている。ちょうど血圧計をでかくした様な感じだ。その笛を奏でる様に吹くとなんとも言えない生命力に満ち溢れたハーモニーが放出され、皆踊り出さずに居られなくなる。ステファンとブービーが俺に近づくなり俺の手を取って輪に参加して、皆んなで手を繋いで輪になってクルクル回りながら中心に向かって両手を上げながらワーッ!こうやるのがフレンチスタイルとステファンが目を輝かせながら言う。なるほど楽しい。日本の盆踊り大会みたいなもんかな。この後も朝方までクラブパーティは続く。皆ベロベロにヘベレケに酔っぱらった頃「よし器材車に積むぞ!」とローディ兼PAのムキムキのポップが言った。「え、今!?」皆フラフラで機材を積む。

4/15曇り
朝8時半起床、トゥールーズへ向かう。約6時間かけ到着。閑静な住宅街の中に今夜のベンニューがあった。まるで幼稚園の様な木造の建屋で周りも公園の様な広場になっている。何となく可愛らしい施設だ。壁に描かれたグラフティは骸骨等グロテスクな感じで、可愛い建屋の不気味さがより引き立っている。スタッフもナイスガイで終始俺達を気遣ってくれた。ミシェルの嫁エスメラルダの実家がここトゥールーズにあり、時間の都合をつけて皆に会いに来てくれた。可愛いベイビーも一緒だ。久々の家族の再会で積もる話も沢山あるだろうミシェル。今夜は心ゆくまで家族と一緒に時間を過ごしておくれ。徐々に日が落ち、建屋が暗闇に浮かび始める夜10時前頃、まるで今夜の贄を求める下級悪魔のように、ぞくぞくとならず者達が集まってきた。ツアーファイナル今夜も満員やで。
一番手Cairans
地元トゥールーズのストーナードゥームスラッジバンド。ドラム、ベース、ギターボーカル、シンセサイザーの四人編成で、シンセにはカオスパッドのような歪み系のエフェクトが付いており、煙いリフをミスティなノイズで覆いながら湿度を上げ耳馴染みをよくしている。ドラムもオーバーアクションなドタバタ系で、客を挑発しつつも色気のある艶やかなタム回しで逞しくも実に心地の良く心に響く演奏だ。地元のファンの支えも根強く、とても愛されているバンドだと肌で感じる。

Monarch
今夜を最後に暫く見納めだ。PAのポップも古過ぎるここの箱の備え付けのタクを弄りながらやけに余裕を見せるように軽口をたたいている。最後の仕事と今夜のツアーファイナルを楽しんでいるようだ。その大きな体で小さなツマミを真剣な表情で調整する、まるで地引網に掛かった魚をとるように、或いは無数の乳房を一つ一つ愛でるように丁寧に。時にダイナミックに時に繊細に。大した男だぜポップ。また会えるよな?じゃ最後の仕事を頼んだぜポップ!

Birushanah
雨、ハイニナルマデ、鏡、アンコールで瞼色の旅人
「ツアーファイナルをここトゥールーズで迎えられてホンマ最高やで!楽しんで帰ってんかー!おおきに!ほなまた帰ってくるさかい!約束やでメルシーボク!」
最後のライブを終え一行はBordeauxへ。器材を倉庫群のリハーサルスタジオへ格納し、それぞれの家へ帰る。お疲れさん。ハグをして別れ俺達はシラーンの家へ。ヨナルテとも再び合流。「久々!どやった!?僕もうこの辺全部遊ぶ所とか買い物出来る所とか完璧やで!あといっつも通る度にグレープフルーツくれるとことかあんねん。連れめちゃ出きたで!あとこれ誕生日プレゼント!ネックレスな!ここのマスターがまたいい奴で!あ、そうそう、Bordeauxで知り合ったブルデスのバンドがおって、それが全編タッピングで凄いバンドで今度ジャケ描く事になっていやぁほんまに云々・・・・やっぱりヨナルテは仕事をしまくっていたのだった!!
EUツアー。何度も国境を越え、様々な文化と風習を持つ多様な民族との交流。Birushanahを観て聴いて欲しい気持ち、未だ見ぬ世界や音楽への好奇心は俺達を何処までも連れて行ってくれるし、決して交わる事もない民族同士を引き合わせてくれる。
何も無かった所へ何かを生みだす意志、構築し行動する力。何より讃えあい労わりあい、皆でそれを楽しむパーティ感。共有できる喜びと達成感。海外ツアーに行く度いつも感じる。
いつからだろう。例えるなら、缶蹴りやかくれんぼ、ビー玉遊びやべったんメンコ靴隠しなどの遊びが、全てテレビゲームに移り変わっていった時のように、スタートとゴールが一つづつのみになり、パターン化し、ただ用意されたレールの中を、まるで鳥カゴの中で過ごし監視され続けるように。或いは蓄電池を消費するロボットの様な生活に埋もれている日々を感じるようになったのは。おっさんらが仕事終わって家の近所のみんなでかくれんぼしていたら可笑しいだろうか。主婦やオバハンらが井戸端会議しながらゴム跳びしていたら可笑しいだろうか。或いはそこへゲストを迎え缶蹴りや靴隠しして交流したら可笑しいだろうか。今、ライブハウスのインディーズシーンですら様式美ばかりのみにとらわれ、入り口を狭くしてはいまいか。何より楽しめているか。搾取、ノルマのみにとらわれてはいまいか。我が国は貧しい国であるのは十二分に理解している。それ故、豊かな国々の倍働かないと到底追いつけないのも重々承知だ。仕事に手一杯でお遊びに付き合ってられない。もっともな話だ。だがその努力と忍耐の集大成の社会が、無数のコンビニ、無駄に無限に果てしなく広がり続ける高速道路のような便利さなのか。俺はそうは思わない。美しさとはなにか、豊かさとは何か。そして人間とは何か、生命とは、そして心とは。競争社会の中でいがみ合い蹴落としあった先に残ったのは。飲み会を開いては足の引っ張り合い。隣の住民の顔も知らず挨拶もしない。干渉しすぎる事を嫌い、一歩間違えればストーカー化。痴漢扱い。変態。皆何と戦い、何に勝ち、何に負け苦しみ、そして荒んで行くのか。
何から始めればいい。目に見えるもの見えないもの、人知れず生まれ消えて行くもの。とにかく目の前の事柄に目を向け、そして手にとっていかないか。大切な何かはすぐ目の前に転がっているのではないだろうか。
何もしなければ何も変わらない。何かをする事で初めて何かが起こる、広がる。何かが始まるという事を俺たちは信じている。良すぎる効率の捻れから生まれる効率の悪い異形達。これこそ普遍的な生命の進化だと俺は信じている。奴らの目が届かないどん底の地下から進んで繋がっていこう。そして何もかもぶっ壊す事から始めないか。誰がこの世界を狭くした!安楽死なぞ望んではいない。さあ旅に出ようぜ!