2025/03/7金
朝6時半過ぎ、目を覚ました俺は先日行った公園へ尺八ルーティン。通行人に変な目で見られ、犬に吠えられながら己のチューニング。俺は昨日の余韻に浸っている暇も無く、帰国すればもう明後日は尺八のライブなのだ。
まだ寝ている佐野はもう一日現地で交流するという事なので、起こさぬよう、アオと2人で荷支度。今朝もやはり八角警戒のアオは、マクドナルドで照り焼きバーガーを食べて安心安定の食事を摂取し終えていた。
午前11時にホテルをチェックアウトし、共に電車に乗り帰国への途へ。
入国時は深夜だった為、窓の外の景色に気が付かなかったが、建設中、建設途中で止まった?ような殺伐とした建設現場の数々、その風景に目が止まる。
「ビル建設途中なんですかね?あちこちありますね」
「途中でオーナーが変わったとか、政府の方針が変わったとか、不渡り手形?的なやつとか。いずれにせよ大きな流れにはどうしても逆らえない、そんな事が世の中には沢山あるのかもね」
散らかったように見える風景。やらなかった方が良かった事、やって良かったとされる事、世の中には結果があり、それに伴う批評も必ずある。混ざったもの、壊れたものは2度と同じに戻る事はない。
だから抗い遮断する。だがその事はある意味で、大きなアクションを起こした者に追随し、真贋を評するだけの傍観者に過ぎないのではないだろうか。無論、言動には責任が伴う。善悪、清濁あるだろう。だが内に籠り、何も起こさない者が、動かないままなのであれば、外に出た動く者がルールを決める。ただそれだけだ。動かぬ者にとってむしろそれこそが、結果であり責任と言えるのかもしれない。
ライブ会場のお客さん、また異国で出会う共演者、街中やホテルのロビーのバックパッカー達、様々な言葉を巧みに使いこなす、まだ年端もいかぬ彼ら彼女らの、逞ましい姿を異国の地で見る度に、俺はそう思う。祖国とはなんぞやと。
窓外を眺める俺の携帯に着信がはいる。ホテルに残った佐野からだ。
「はい。なに?」
「もしもし!いや、あのホテルの従業員から、お前なんで居てるの!?友達もう帰ったで!置いてけぼりちゃうの!?って言われて、いや、俺居残りやからいいねんって説明してて、もしやっ!?カードキー持ったまま2人とも帰国したんちゃうんかな!!?って慌てて電話したんやけどカードキー返した!!?」
「返した」
「ほっ、良かった、じゃあOKっす!ほな!ガチャ、ツー…ツー」
「…」
「…佐野さんから何の電話っすか?」
「カードキー返したっ!?ってさ」
「何すかそれ?ククク…」
俺とアオは残った佐野の姿を想像しながら、祖国日本へ帰国したのであった。
終
Text by Iso